全国地形分類図による表層地盤特性のデータベース化, および, 面的な早期地震動推定への適用
2003
We developed digital maps of the geomorphological land classifications and the site amplification factors in Japan, and applied them to strong motion estimations immediately after earthquakes. For making the maps, we first digitized the geomorphological land classification maps of Japan (1:200,000 or 1:100,000 scale) and constructed 500 m mesh data. Then, we made up the maps of site amplification factors using the empirical relation by Midorikawa and Matsuoka (1995). We evaluated their accuracies by comparing the estimated strong ground motions with the records of K-Net for recent earthquakes in the Kanto area. We estimated the strong motions using the site amplification factors and the two methods: the attenuation relation (Si and Midorikawa, 1999), and an interpolation method using the records. We found that the second method gave more reliable results than the first method, because the first method strongly depended on accuracies of the source and path effects. However, since we may not be able to obtain quickly the strong motion records near highly damaged areas, it would be efficient to evaluate the strong motions using the first method immediately after an earthquake, then to replace them by the second method after getting the records. Finally, we compared the site amplification factors using the two methods. The first is based on the average of shear wave velocities from the free surface to the 30m depths using boring data. The second is the above-mentioned method based on the geomorphological land classifications. The comparisons showed that the first method was more accurate and reliable. Therefore, it is necessary to replace the digital maps of the site amplifications by those using the first method, when we obtain boring data. 1.はじめに 1995年阪神・淡路大震災を契機に、多くの自治体において活断層を考慮した大規模災害に 対する地震防災対策の必要性が指摘され、新たな地震被害想定調査が行われ[例えば損害保 険料率算定会(1998)]、また被害想定のための各種のツールも開発されている。例えば、内 閣府は全国を網羅できる地震被害想定支援ツールを作成し、Web 上で公開している〔内閣 府(1999)〕。また消防庁でも簡易型地震被害想定システム[座間・細川(1996), 座間・他 (2000)]を開発し、CD-ROMにて公開している。しかしながら、地盤データとして用いてい る国土数値情報は 1 km間隔の基準地域メッシュ(第3次地域区画)であり、また表層地形 分類に基づく地盤増幅特性[松岡・翠川(1994)]を用いているため、精度と解像度に劣る ということが問題点として挙げられる。一方、自治体の被害想定においては、原則として 500m メッシュ(2 分の1地域メッシュ)単位で行われており[例えば損害保険料率算定会 (1998)] 、またボーリングデータなども用いて地盤増幅特性を考慮しているため、より解像 度と精度に優れていると考えられる。しかしながら地震動や被害推定は、各自治体ごとに 独自の手法を用いているため、想定結果に隣県同士で不整合なども起こり、広域な地域を 対象とした地震動・被害推定を行うことに難点がある。 一方、阪神・淡路大震災では地震直後での適切な地震災害情報の把握と、それに基づい た初動体制の遅れという問題も指摘された。その結果、国・自治体、企業などでは大規模 な地震計ネットワークの設置が行われ、様々な早期地震情報・被害予測システムが起動す るようになった〔例えば翠川(1996)〕。例えば気象庁では全国で約 600点の震度計ネットワ ークを整備し、震度情報を地震発生から約 2分後にはテレビなどで一般に公表している[例 えば、横田(2002)]。一方、内閣府では緊急災害対策本部等の応急対策実施を支援するため の地震防災情報システム(DIS)の整備を進めている[例えば、桐山(2000)]。DIS には気象庁 の震度情報から被害推定を行う EES(地震被害早期推計システム)が含まれているが、推定 手法には国土数値情報による地震被害想定支援マニュアル〔内閣府(2001)〕を用いており、 解像度は 1km メッシュである。また 2000 年鳥取県西部地震や 2001 年芸予地震の際、EES は被害を過大に評価しており、評価法の見直しが行われている[例えば、翠川(2002)]。一 方、自治体や企業では独自の高密度な地震計ネットワークを用いた早期地震防災システム を開発している。例えば、横浜市では約2 km間隔で市内150箇所に強震計を配置しており、 これを利用した早期地震防災システム(READY)を開発した[Midorikawa et al.(2000)]。ま た東京ガスの SUPREME[清水・他 (2002)]では SIセンサーを首都圏の約 3700箇所という 高密度で設置し、それぞれ早期地震防災システムを構築している。一方、海外でも同様な 試みが行われており、米国・南カルフォルニアでは California Institute of Technology (Caltech)、U.S. Geological Survey (USGS)、及びCalifornia Division of Mines and Geology (CDMG)が共同して強震観測ネットワーク (TriNet)を開発している。このシステムを用い て、地震後に数分間で地表加速度・速度・震度マップ(Shake Map)をWeb上で公開してい る〔Wald et al.(1998)〕。 一方、独立行政法人・防災科学技術研究所では近年、高感度地震観測網(Hi-net)、広帯 域地震観測網(FREESIA network、2002年 4月より F-net)、強震観測網(K-NET、KiK-net) を整備してきており、それを活用したリアルタイム地震情報伝達システム (ROSE; Real-time Operation System for Earthquake)[大井(2001)、石田・大井(2002)]の開発を 進めている。このシステムでは地震発生後、数分以内に震源決定を行い、距離減衰式を用 いた面的な地震動推定を行う予定である。さらに強震観測記録が得られ次第、推定地震動 の精度を向上させ、得られた推定結果をWeb上にて公開することを予定している。 本研究の目的は、防災科学技術研究所のリアルタイム地震情報伝達システム(ROSE)の 基礎となる全国の地盤増幅特性マップを整備し、さらに距離減衰式及び強震記録を元にし た地震動推定の精度のチェックを行うことにある。現在、利用可能な全国規模での表層地 盤の数値地図は、1km メッシュ(基準地域メッシュ)の地形分類図である国土数値情報の みである。最近、若松・他(2002)は国土数値情報と土地分類基本調査による縮尺 5 万分の 1 の地形分類図を基にした精度の高い 1kmメッシュの地形分類データを作成中である。それ に対して本研究では全国土地分類図の地形分類図を独自にデジタル化し、まず 500m メッ シュ単位で地形分類図のデータベースを作成する。次に内閣府の地震被害想定支援ツール をもとに、全国を網羅する 500m メッシュの地盤増幅マップを構築する。さらに関東平野 を対象として、地震被害想定支援マニュアルをもとに、距離減衰式と K-NETによる強震動 記録を用いた面的な地震動推定を行い、実際に観測された強震記録の結果との比較から精 度の検討を行う。その際、地盤増幅特性の評価は地形分類と標高データをもとにした手法 [松岡・翠川(1994)、翠川・松岡(1995)]と、ボーリングデータをもとにした手法[Midorikawa et al.(1994)]の比較検討も行う。最後に、面的に推定した震度と気象庁による震度と比 較を行い、精度の検討も行う。 2. 表層地盤特性のデータベース化 全国を対象に面的な地震動推定を行うため、本研究ではまず地形分類図をもとに 500mメ ッシュ単位での表層地盤特性のデータベースを作成する。同時に国土数値情報の 1kmメッ シュ単位の地形分類図との比較を行い、解像度を比較検討する。次に、本研究で用いる地 震被害想定支援マニュアルによる速度の増幅率マップの作成法を簡単に説明する。増幅率 は(1)式による経験式〔Midorikawa et al.(1994)〕を用いる。 30 log 66 . 0 83 . 1 log AVS R − = (1) ここで R は工学的基盤に対する表層地盤による速度の増幅率、AVS30は地表から深さ 30m までの平均 S波速度(m/s)である。AVS30は地形分類と標高より以下の経験式[松岡・翠川 (1994)、翠川・松岡(1995)]で評価する。 H b a AVS log log 30 + = (2) ここで Hは標高(m)、a、bは Table.1により地形分類により決まる係数である。本研究で は 500m メッシュの標高データとして、250m メッシュ[国土地理院(1997)]をもとに該当す る 500mメッシュ内での平均値を求め使用した。一方、K-NETの観測点ではボーリングに よる速度データが使用できるため、AVS30の評価に用いた。但し、K-NET の観測点では深 さ 20mまでのデータしか使用できないため、司・翠川(1999)の基準に従い最下層の値を 深さ 30mまで引き伸ばして使用した。 500mメッシュ単位での地形分類図の作成は以下のように行う。Fig.1に東京下町におけ る例を示す。まず県別の土地分類図(1/10 万または 1/20 万)[ 国土庁土地局国土調査課 (1976)]の地形分類図をスキャナーによりパソコンに取り込む(Fig.1a)。次に地理情報システ ム(GIS)を用いて地形分類図を緯度経度系に合わせ、2分の1地域メッシュ(500m メッ シュ)と重ねる(Fig.1b)。さらに各メッシュの代表点(中心点)から地形分類を読み取り (Fig.1c)、500mメッシュの地形分類図を作成する(Fig.1d)。但し、ここでは地形分類図に おいて自然堤防・砂州となっている場合は自然堤防としている。Fig.1e には比較のため国 土数値情報の1kmメッシュの地形分類図を示しているが、Fig.1aの地形分類図やFig.1d の 500m メッシュ地図に見られる沖積谷や埋立地などの微細な地形が表現できていないこと が分かる。但し、ここで作成した 500m メッシュの地形分類図では、代表点としてメッシ ュ中心点を用いているため、Fig.1d に見られるように例えば中心点が河川である場合、メ ッシュ全体を河川として評価してしまうことに注意を要する。今後はメッシュ内での地形 分類図の面積比を考慮して代表点を決定するなどの改善の余地がある。 同様な作業を全国の地形分類図に対して行い、500m メッシュの地形分類図、さらには Fig.2に示すように式(1)、(2)を用い 500mメッシュの速度増幅率マップを作成した。さら に地震動評価の例として、次章で説明する 2000 年6月の千葉県北東部の地震を対象とし、 Fig.3a には距離減衰式を用いた工学的基盤における最大速度分布を、Fig.3b には地表にお ける最大速度分布を示す。表層地盤の増幅特性により基盤上の単純な最大速度分布が複雑 な分布へと変わり、表層地盤特性の評価の重要性が分かる。 次に、得られた全国の 500m メッシュの表層地盤データベースと、国土数値情報との比 較を広域な地域を対象として行う。Fig.4には例として関東地方を含む地域メッシュコード 5339(80km×80km, Fig.3を参照)を対象として、国土数値情報の地形分類コード(Table. 1)から、該当する 1km メッシュ内での 500m メッシュ地形分類コードを引いた値を図示 する(Fig.4 各図の地形分類は 1km メッシュによる)。図より、「山地」、「台地」、「河川・ その他」など、地形が比較的単純な地域では、コード差がほぼ0に集中しているが、「扇状 地」、「自然堤防」、「谷底平野」、「三角州」などの地形が入り組んでいると考えられる地域で はコードの差異が目立っている。また「埋立地」ではコード差が0の次に8の値が目立って いるが、これは 1kmメッシュで埋立地(コード8)と与えられている地域が、500m メッ シュでは海や河川(コード0)と評価されているためである。 以上のことから既存の国土数値情報と比較し、本研究で作成した 500m メッシュの地形 分類図データベースはより微細な地形分類を表現しており、全国を対象とした面的な地震 動推定に用いるのに有効であるといえる。次章では、実際に観測された強震記録を用いて、 ここで作成した表層地盤による増幅率のデータベースと、地震動推定手法の妥当性を検討 する。 3. 地震動推定法 地震動推定には地震被害想定支援マニュアルをもとに2つの推定方法を用いる。ひとつ は震源データから距離減衰式を用いて地震動推定を行う方法である。Fig.3 及び Fig.5a に 示すように、まず工学的基盤上の最大速度を求め、(1)式による地盤増幅率を乗じて地表面 における最大速度を求める。距離減衰式として、ここでは司・翠川(1999)を用いる。 X k c X b V ∗ − + − = ) log( log e Si di D h Mw a b + ∗ + ∗ + ∗ = ∑ (3) 002 . 0 = k ここで、V は最大速度値(cm/s)、X は断層面からの最短距離[km]、k は粘性減衰係数、 Mwはモーメントマグニチュード、Dは震源深さ(km)、a,h,di,eは Table.2より求まる係数 である。Siはダミー変数で、断層タイプから決まる係数であり、断層のタイプは、地殻内地 震、プレート間地震、プレート内地震と分類されている。(3)式は同じ距離にある場合、プ レート間地震、地殻内地震、プレート内地震の順番で最大速度値が大きくなる特徴がある。 もうひとつの地震動推定法は、強震観測データを補間して任意点における地震動を求め る方法である。Fig.5b に示すように、この方法では、まず観測された各点における強震観 測データの最大速度値から、それぞれの地盤増幅率で除して工学的基盤上での最大速度値 を求める。次に、求めたい任意点から最大 50km 以内かつ最大 5 点の観測点における工学 的基盤上の最大速度値を用いて、(4)式による距離の重み付けを行い、任意点における最大 速度値を算出する。最後にその任意点における増幅率を乗じて地表面における最大速度の 推定値を求める。
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