分枝鎖アミノ酸製剤の輸液が著効した肝硬変(肝性脳症慢性型)の1例―肝性脳症の発現機序を中心として

1980 
肝性脳症慢性型を呈する肝硬変例(62歳,男子)に各種の治療法を施行し,それらの臨床効果と血清アミノグラムに及ぼす影響を中心に検討し,肝性脳症発現機序の解明を試みた.本例では,血中アンモニア濃度の増加と血清分枝鎖アミノ酸(BCAA)濃度の著減とが相互に関連して認められたが,血清遊離tryptophan濃度は脳症時に必ずしも高値を示さなかった.BCAA含有量の多い特殊組成アミノ酸輸液製剤であるHep-OUやFischer液あるいは3種のBCAAのみを輸液すると,血清アミノグラムの是正,意識障害や脳波所見の改善などが認められた.肝性脳症時にみられた髄液中のアミノ酸とモノアミン濃度の異常も,Hep-OU投与で改善された.しかしvalineのみの単独投与やGlucagonとInsulinの同時投与では,BCAA/芳香族アミノ酸(AAA)比(BCAA/AAA)の改善は認められるものの,覚醒効果は得られなかった.またArginine-Glutamate製剤は入院初期では有効であったが,肝病態の進展に伴なって次第にその効果は減じ,血清アミノグラムの不均衡を一層助長させる傾向を示した.BCAAの著減を特徴とする血清アミノグラムも死亡前にはphenylalanineやtyrosine濃度の増加が著明となり,いわゆる肝不全パターンを示し,BCAA製剤の投与でも覚醒効果が乏しくなり,肝硬変診断後25年目に肝腎症候群を生じて死亡した.以上より本症例の脳症発症にはアンモニア代謝異常と生体内BCAAの欠乏とが相互に関連し,結果として脳内アンモニアの増量とAAAの脳内移行の亢進によるモノアミン濃度の増加が重要視された.
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