鼓膜切開による高位内頸静脈損傷から動静脈空気塞栓症に至った1例(Systemic air gas embolism complicated with high jugular bulb injury: a case report)

2016 
要旨 患者は67歳の女性。約6か月前からの左低音性耳鳴を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し,左滲出性中耳炎と診断され,左鼓膜切開術を施行された。切開時に静脈性出血があり,直後に呼吸困難を訴え,意識が低下し救急要請された。救急隊接触時に室内大気下SpO2が80%であり,当科へ搬送された。当院到着時は意識清明で,高流量酸素投与下でSpO2 99%であった。経胸壁心臓超音波にて両心室内の微小気泡を認めた。頭部CTにて左内頸動脈内の気泡,左鼓室底の形成不全ならびに高位頸静脈球を認め,胸腹部造影CTにて肺動脈主幹部内の気泡,両側肺野に多発するすりガラス影を認めた。12誘導心電図で右心負荷所見を認めた。動静脈空気塞栓症と診断し,緊急で高気圧酸素治療を行い,その後は高濃度酸素投与や輸液療法を中心とした全身管理を行った。治療開始後速やかに呼吸状態は改善した。第3病日に施行した全身CTでは,動脈内空気塞栓像は消失し,第11病日に独歩退院した。高位頸静脈球は耳鼻咽喉科領域において比較的よくみられる解剖学的破格であるが,その損傷による動静脈空気塞栓症の報告はなく,非常に稀な合併症である。救急診療において,この解剖学的破格の認知および稀ではあるが,動静脈空気塞栓症を合併し得ることを認識すべきである。また,空気塞栓症に対し高気圧酸素治療が有効であり,専門施設への早期搬送も念頭において診療にあたる必要がある。
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