「献血の危機:何故献血者は減り続けるのか?」を読んで

2010 
清水先生の「編集者への手紙」を拝読し,20 年間献 血現場にいた者として感想および私見を述べてみたい と思います. まず献血者数減少についての分析はきわめて適切で あると思いますが,献血者数は減少しても献血量はほ とんど減少していないのですから,それ自体はあまり 問題でないともいえます.しかし,ご指摘のように若 年献血者の相対的減少が著しい点が問題であります. もっともこれは年金問題と同じで,輸血の 7割を受け る高齢者を少子化で減少した若者が支えるという構図 自体に無理があるわけです. ともあれ,絶対数減少を上回る若年者献血の減少の 原因として,200ml 献血の不要性とそれにマッチしな い献血基準をあげておられますが,それだけが原因で はないと思われます.たしかにより少ないドナー数で 輸血することは副作用防止に重要なことですが,この 単純なことが声高に叫ばれたのは,400ml を導入した 1985 年ではなく,2000 年ころからであります.つまり, 逆に感染症スクリーニングが整備されて 200ml の相対 的危険性が低くなったときにこれが言われだしたこと を考えると,むしろその本質的目的は効率性にあると 思われます. 一方,献血適否判定における問診が精細化し,GMP (GoodManufacturing Practice:医薬品の製造および品 質管理の基準)のために製剤基準が厳密化したため, 献血を希望しながらできない献血者の割合(2008 年統 計で,男子 8.2%,女子 22.5%)や,献血後減損される 割合が増加しています. 如上の「効率性の罠」と「安全性の罠」の二つが実 は根底に潜む問題でありましょう.もちろん献血基準 の緩和は安全に行えるのであれば望ましいことですが, 若年者に 400ml が出来るという基準を提示したからと いって,献血者がただちに増えるということが期待で きないことは,献血者の生の声をたとえばネットで聞 けばすぐにわかることです.つまり献血者は必ずしも 合理的な利他心によって献血しているわけではないの です. 「効率性の罠」については,献血事業が売血ではなく 献血者の自発的意思に頼っている以上,より安全で能 率的だからという理由だけで若年者の 400ml 献血を簡 単に推進することはできません.200ml を廃止しない 限り本質的な解決にはなりません.現在の輸血の需要 を満たそうとするならば,400ml 重視,200ml 軽視の ポリシーを今一度再検討する必要すらあると考えます. 一方「安全性の罠」については,ランダムに例をあ げると,英国滞在歴 1日の献血からの排除とその遡及, 当日無熱であった献血者の血液を 1週間後にインフル エンザにかかったからといって減損する,あるいは手 あれを理由に菌血症の可能性を過大評価して献血を断 るなど,医学的にみても首肯しにくい制限がありすぎ るというのも事実であり,その改善が求められるとこ ろです.その際献血不足との比較考量で献血基準を考 えるいままでのやり方は決して科学的ではない,むし ろリスクマネージメントとコストベネフィットの立場 から考えるべきであろうと考えます.なぜなら,献血 不足はある範囲ではリクルートにコストをかけること で克服できますが,適切な安全性は譲れない基本だか らです. しかしながら,最終的に献血者減少を防ぐ方法は, 献血者を尊重することでしかないでありましょう.製 造物責任を満たすために輸血患者を尊重することがい ままで行われてきました.そのこと自体はいいことで すが,献血者あっての輸血であり,献血者を物心両面 で尊重することこそ,まず最初にやらなければならな い道であります.そのなかには,交通費や記念品の供 与や,確率的に予防できないVVR(Vaso Vagal Reaction:血管迷走神経反応)後の事故に対する真摯な補償 も含まれるでしょう.前者については新血液法が遅れ ばせながら売血を禁止したことから自由度が制限され ており,後者についても無過失責任が確立されなかっ た点が遺憾に思われます. Dr Holland もそうしたリクルートへの努力によって donor loyalty を築くことを強調しています.その意味 では東京都センターのアキバルームの試みやトウィッ ターの活用は,その一歩となるものだと思います.故 関口定美先生が提唱したベタードナーサービスもまさ
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