経営者の自信過剰が利益平準化に及ぼす影響, Managerial Overconfidence and Income Smoothing

2021 
本研究の目的は,経営者が有する自信過剰(overconfidence)という個人的な特性が報告利益の平準化の程度とその情報有用性(informativeness)に及ぼす影響を定量的に明らかにすることにある。近年,既存のエージェンシー理論の枠組みとは異なる視点から経営者の経済的行動の動機を説明するものとして,経営者の心理的な特性の存在が考慮され始めている。なかでも,「経営者の自信過剰」傾向は,将来業績予想やリスク評価の楽観性と結びつき,財務報告の姿勢や数値に影響を及ぼしていることが海外の先行研究によって報告されている。一方で,当該領域に関する日本における研究蓄積量は相対的に希薄であり,経営者の自信過剰バイアスが財務報告,具体的には報告利益とその情報有用性にどのように作用するのかについては未解決の課題となっている。検証の結果,自信過剰な経営者は,楽観的な将来業績の見通しにもとづき利益平準化を意図した利益調整を行うものの,将来業績に対する見積もりが誤ったものになることから利益の平準化の程度は低下することが観察された。また,経営者の自信過剰によって平準化の程度が低下した利益は,利益の持続性や将来キャッシュ・フローとの関係性が低下しており,利益の情報有用性の低下につながっている可能性が示された。本研究の検証結果は,利益平準化の程度に影響を及ぼす要因のひとつとして,これまで十分に関心が向けられてこなかった「経営者の個人的特性」が想定されるという可能性を支持するものである。さらに,当該特性に基づくバイアスが利益の情報有用性(将来予測可能性)に作用することから,当該特性の経済的な重要性と研究蓄積の必要性を指摘することができる。また,経営者の自信過剰に関する先行研究では十分に明らかになっていない,当該特性が利益の情報有用性に与える影響に関する証拠の蓄積に貢献している。
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