フランスにおける大学ガバナンスの改革 : 大学の自由と責任に関する法律(LRU)の制定とその影響

2014 
サルコジ=フィヨン政権成立後間もない2007年8月,大学の自由と責任に関する法律(Loi n°2007-1199 du 10 aout 2007 relative aux libertes et responsabilites des universites: LRU)が制定された。LRU は,国から直接に統制されてきた大学の裁量を大幅に拡大するものであり,同法の制定は世界的な高等教育機関の自律性拡大に沿ったものである(大場,2010)。LRU は単に大学の裁量を拡大しただけではなく,執行部の権限拡大,合議機関の縮小,利害関係者(地域・学生)の大学運営参加など,組織運営全般にかかるものであった。   LRU は前年の研究計画法とともに,長年にわたって取り組まれてきた高等教育・研究制度改革の帰着点とも言われ(Paradeise, 2007),根本的な大学改革が実施されることが期待されていた。LRUに基づいて,2009年から2013年までに,全ての大学(83校)が「拡大した責任と能力(responsabiliteset competences elargies: RCE)」を有する自律的大学(universite autonome)となった。LRU の成果について高等教育・研究省(MESR, 2011)は,大学運営の在り方が変わることによって,学生,教職員,連携相手のそれぞれに多大な利益がもたらされたとしている1)。   LRU の制定に際して反対運動はあったものの,全般的に反対運動は低調であり(岡山,2008),逆にLRU 適用後,大学からは更なる裁量拡大を求める声がしばしば聞かれた。LRU がもたらした改革は不可逆的に見えたものの,2012年5月の右派から左派への政権交代に伴ない,オランド=エロ政権によって同法は根本から見直されることとなった。そして,全面適用から半年余りの2013年7月,新たな高等教育・研究法が採択された。その際の議論において,LRU がもたらした組織運営改革の見直しを求める意見が多数出されている。   本稿は,LRU が大学の組織運営に与えた影響について検討する。以下,第1節で先行研究・分析の枠組について記述し,第2節ではLRU の下での大学の組織運営制度を概観する。第3節では,LRU が大学の組織運営に対して与えた影響について考察する。第4節では,2012年の政権交代に伴って翌2013年に制定された高等教育・研究法を取り上げ,その内容並びに議論となったLRU の課題等を整理する。結語となる第5節では,右派・左派政権下で制定された二つの大学改革に関する法律の制定から得られる知見を取りまとめ,そこから若干なりとも日本の高等教育に対する示唆を得ることとしたい。
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