簡易痴呆検査としての「時計」の描画の検討
1993
特別養護老人ホームにおいて, 簡易痴呆検査法としての「時計」の描画の有用性について検討した.対象は全国の済生会関連の特別養護老人ホーム11施設入所者1,015名 (男266名, 女749名) である. 検査方法として, 1時45分を指している時計の描画と, ミニメンタルステートテスト (以下MMSTと略す) を施行し, 両検査結果を比較検討した.比較検討できた症例は834例 (平均年齢81.35歳) であった. 時計の評価は, 外枠の円・文字盤の数字・長針と短針の2本の針, の3つの要素のうち2つ以上できたものを「時計らしく書けている」と分類し, 3つの要素すべてと時計の針の位置まで含めて完全に書けたものを「完全に書けた」と分類した. 4群に分類すると, 各群のMMSTの平均点は, (1)「全く書けなかった」496例が5.9点, (2)「時計らしく書けなかった」144例が16.4点, (3)「時計らしく書けた」170例が21.7点, (4)「完全に書けた」24例が23.5点であった.時計の描画の群を「時計らしく書けている」かどうかで2群に分け ((1)(2)対(3)(4)), MMST 20点以下と21点以上を境界とした場合の鋭敏度・特異度・正診率は0.89, 0.64, 0.84であり, スクリーニング検査として有用であると考えられた.「時計」の描画は高齢者を対象としても外来などで比較的容易に行うことができる検査である. 時計の外枠の円・文字盤の数字・長針と短針の2本の針, の3つの要素のうち2つ以上できるかどうかを基準として,『時計らしく書けている』かどうかを判定すると, 痴呆の有無をスクリーニングできる可能性があり,「時計」の描画は, 簡易痴呆検査法として有用であると考えられた.
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