An epidemiological study on visual functions and mental/physical stresses in cytotechnologists routinely working with microscopy, with special reference to a follow-up observation

2008 
目的 : 近年, VDT 作業のような近業従事者に視機能異常や種々の身体的不定愁訴が発生することが指摘され, 旧労働省から昭和 60 年 12 月 20 日付けで「VDT 作業のための労働衛生上の指針について」が出され, 健康障害の可能性が指摘され, その対策をする旨の勧告がなされた. しかし, 同様の近業業務でありながら, 顕微鏡を用いた長時間業務については触れられていない. 過去の論文を逍遥するに, わずかな報告がみられるにすぎない. 今回は, 当学会に所属する細胞検査士の顕微鏡を用いた長時間業務の身体, 特に視機能に及ぼす影響を疫学的立場から解析し, 明らかにしようとした.方法 : 平成 16 年 8 月∼平成 17 年 11 月の約 2 年間で, 当学会が主催する各種の研修会や学会に出席した細胞検査士のうち, このプロジェクトに積極的に希望された細胞検査士 1061 人にデジタル型屈折計を用いて, 両眼の屈折度を測定し, その場で用意された視機能および関連する身体症状に関するアンケートの質問事項に回答を求めた. また, この期間に約 1 年の間隔で 2 回の検査およびアンケート調査を受けた細胞検査士が 86 人あり, これらの 86 人のうち, 調査に不備のあった 1 例を除いた 85 人について, 屈折度検査および視機能/身体症状等についても分析を行った.今期間中に検査を受けた 1061 人中で, 約 1 年の間隔で 2 回の検査を受けた 85 人 (男性は 42 人, 女性 43 人) について屈折度の変化, 検鏡時間, 検鏡枚数について, 統計学的に検討した.この 2 年間に視機能検査を受けた 1062 例のアンケート調査票を分析し, 進行性の視力低下と関連する要因を, 年齢, 性, 検鏡時間, 検鏡枚数を目的変数として, 多重ロジスティック回帰により解析した. さらに, 進行性の視力低下の相対リスクを高める検鏡枚数についても同解析から推定を行った.2 年分 1062 例のアンケート調査票から, 視力以外の症状や眼以外の症状, 頭痛, 肩痛, 上腕の痛み, 肘痛, 手首痛, 腰痛などについても解析した.成績 : 細胞検査士は男女ともに屈折度の点からみると, 近視に傾いており, その中央値 (median) は-4D で, 左右差, 男女差はみられなかった. 視力についても近視が多かったが, 視力低下は男性が細胞診業務開始後 7.4±7.3 年, 女性では 4.6±5.5 年に発生しているという結果で, しかも 2 回検査の結果から, 約 1 年間の顕微鏡作業は屈折度に影響を与えていることが示唆された.次に, 45 歳以下で視力低下が固定したものを除外した 799 例を対象として, 進行性の視力低下の有無を目的変数として多重ロジスティック回帰分析でその要因を解析した. その結果, 進行性視力低下は, 女性で起こりにくく, 年齢, 検鏡時間または検鏡枚数の増加と関連していた. さらに, 一日の検鏡枚数で階層化し, 40 枚以下を基準カテゴリーに, 40∼60, 60∼80, 80∼100, 100∼枚の 4 カテゴリーに対するダミー変数を作成して, 進行性視力低下との関連を調べたところ, 各カテゴリーの相対危険度を表すオッズ比は, 1.92, 3.07, 2.87, 1.49 であった. これから, 60 枚以上で進行性視力低下のリスクがより高まると考えられた.視力以外の症状についての質問には一日のうちで, 常時自覚的な眼の疲労感のような症状がでているか, あるいは悪化していると回答したのは, 男性では 388 人中 289 人 (74.5%) があると答え, 女性では 516 人中 417 人 (80.8%) があると回答した. 眼痛ありと答えたのは男性で 11 人 (2.8%), 女性で 19 人 (3.6%), 強いまぶしさを感じるという検査士は男性で 22 人 (5.7%), 女性で 41 人 (7.9%) であった. また, 眼瞼痙攣については男性で 7 人 (1.8%), 女性で 8 人 (1.6%), 眼の乾燥感は男性で 18 人 (4.6%), 女性で 57 人 (11.0%), 飛蚊症は男性では 26 人 (6.7%), 女性で 46 人 (8.9%), 近くが見辛いという症状は男性で 111 人 (28.6%), 女性で 94 人 (18.2%) であった. また, 眼以外の症状については, 頭痛については男性で 9 人 (2.3%), 女性では 19 人 (3.7%) にみられた. 肩痛は男性で 32 人 (8.2%), 女性で 113 人 (21.9%), 上腕の痛みについては男性で 13 人 (3.4%), 女性で 32 人 (6.2%), 肘痛については男性で 10 人 (2.6%), 女性で 22 人 (4.3%), 手首痛については男性で 13 人 (3.4%), 女性で 23 人 (4.5%), 腰痛については男性で 71 人 (18.3%), 女性で 86 人 (16.7%) であった. 肩痛, 腰痛などが高率にみられた.結論 : 長時間の顕微鏡観察業務は, 視機能をはじめ, 他の身体的不定愁訴の原因になりうることが示された. この細胞診スクリーニング作業を今後進めるに当たっては, 60 枚以上の多数枚数の長時間連続検鏡を避ける必要があり, 今後視機能およびその他の身体症状のリスクを極力低下させるためにも何らかの対策が必要と考えられる.
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