アミロイド前駆体蛋白質遺伝子の点突然変異 (APP717) を認めた家族性アルツハイマー病の1家系

1992 
逆行性遺伝学の手法を用いて, 遺伝性のある家族性アルツハイマー病 (以下FADと略す) の原因遺伝子を単離, 同定し, 病因解明を目指す研究が盛んに行われている. 特にこれまで連鎖が無いとされてきたアミロイド前駆体蛋白質 (以下APPと略す) 遺伝子の異常が, 一部の白人FAD家系において報告され注目された. 日本人の3家系において同様のAPPの点突然変異が存在することが明らかになった.今回我々はFADと診断された兄弟発症の1家系を経験したが, この兄弟及び次世代の1名にAPP遺伝子の1塩基置換 (APP717) が存在した. 兄 (症例1) は52歳時に物忘れで発症し, 徐々に痴呆が進行した. 経過中にジャルゴン失語, 鏡現象, 仮性対話などこれまで日本人のアルツハイマー病では記載の少なかった神経精神症状を示し, 肺炎にて57歳時に死亡した. 経過観察中に行った脳CT, 脳波, SPECT等の所見よりアルツハイマー病が強く示唆され, 剖検によりアルツハイマー病と確定診断された. 弟 (症例2) も, 45歳時に物忘れで発症し, 兄同様の経過を経て, 高度の進行性の痴呆症状を呈し53歳で死亡した. 兄弟の母親は45歳時に痴呆症状を呈して死亡しており, アルツハイマー病が疑われている.これらAPP遺伝子に点突然変異の存在する2症例について臨床経過, 病理所見を詳細に検討したが, 臨床的にジャルゴン失語を認めたことと, 病理学的に idiopathic Parkinson's disease の合併が示唆された以外に, 他のFADや孤発例のアルツハイマー病患者に比し特記すべき事は無かった. さらに本邦FADの全国調査の結果も含めて検討を行い, FAD家系収集を行う意義と今後の遺伝子解析の方針について考察を行った.
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