火災加熱を受ける鋼構造部材の変形性状に関する実験的研究 : Experimental Study on Load Bearing and Deformation Capacity of Steel Structural Members exposed to Fire

2017 
1.研究の背景//建物に耐火性を持たせる基本方策は、防火区画により火を封じ込めて、火災の延焼拡大を防止することである。防火区画により火災の延焼拡大を防止できれば、避難と消防活動が安全に行われ、人命と財産が守られる。耐火設計の出発点は、防火区画による火災の延焼拡大防止にあると考える。本研究は、防火区画内に火災が封じ込まれることを前提とする区画火災を対象とした、区画部材を支える構造部材の耐火性に関する研究である。一般的に採用されている耐火設計方法においては、標準耐火試験により得られた構造部材の耐火時間が建築法規で定められた要求耐火時間を上回ることを確認することにより、建物の耐火性を確保している。一方で、実際の建物条件に応じた火災挙動を予測して構造部材の耐火性を確認する、数値解析に基づく耐火設計方法が1989年に提案されている。数値解析に基づく耐火設計方法の手順は、まず安全係数を設定し、数値解析により火災性状・部材温度・力学性状の予測を行い、最後に、耐火性能評価基準に基づいて耐火性を決定する方法である。本研究は、数値解析に基づく耐火設計方法に適用することを前提とした、力学性状予測と耐火性能評価基準に関する実験的研究である。鋼構造部材の耐火性を確保するために、一般には、鋼構造部材に耐火被覆を施して、鋼材温度を抑制する方法が採用されている。従来の標準耐火試験においては、耐火被覆が施された鋼構造部材の鋼材温度が平均350℃以下かつ最高450℃以下に収まるか否かによって、鋼構造部材の耐火時間を決定していた。一方、数値解析に基づく耐火設計方法は、1990年頃より活用され始めた。その多くは、鋼材温度600℃において長期許容応力度以上の降伏強度を保証する、耐火鋼に適用したものであった。このような状況下において、鋼構造部材が負担している設計荷重が小さければ、一般鋼においても鋼材温度600℃位までの耐火設計が可能ではないかという思いが本研究の発端であった。1992年には、高層鉄骨架構48棟における熱応力変形解析の結果に基づいて、耐震設計された鋼構造骨組は600℃位までの耐火性を有する可能性が示された。しかし、同じ報告において、火災加熱を受ける鋼柱の柱頭と柱脚および鋼梁の端部と中央部に大きな曲率が生じて局部座屈が発生することが指摘され、高温時における鋼柱と鋼梁の荷重支持能力を実験で確認する必要があるとの課題が挙げられた。本研究における実験は、この課題に基づいて計画され、1997年に実施された。鋼材温度400℃~600℃における一般鋼の実験資料を蓄積したものである。//2.研究の目的//鋼構造建物において火災が生じると、加熱を受ける鋼構造部材には、鋼材の熱膨張と熱劣化さらには周辺部材からの拘束により、極めて大きな熱変形が生じる。火災加熱を受ける鋼構造骨組の一般的な挙動を図1に示す。外柱を含む区画に火災が生じると、加熱梁が伸びだすことにより、外柱は外側へと押し出される。これより、曲げ変形の集中する外柱の柱頭・柱脚には、局部座屈が生じる可能性がある。加熱梁が外側へと伸びだすことができない場合は、梁自身がたわみ込みんで、梁の両端部と中央部に曲げ変形が集中して局部座屈が生じる可能性がある。高層鉄骨架構48棟における600℃までの熱応力変形解析を行なった報告によると、外柱柱頭における水平変形量は、15棟の例において階高の1/50位にまで達しており、半数以上の例において階高の1/120を大きく上回っていた。また同じ報告において、梁中央部におけるたわみ量は、5棟の例において梁スパンの1/30位にまで達しており、ほとんどの例において梁スパンの1/300を大きく上回っていた。このように火災加熱を受ける鋼構造骨組には、地震時をはるかに上回る変形が生じる。よって、鋼構造部材に発生する局部座屈を避けがたい。これより鋼構造の耐火設計においては、板要素の幅厚比を制限して局部座屈を防止する設計とは異なり、局部座屈後における鋼構造部材の変形性状を考慮した設計を行なうこととなる。本研究の目的は、従来不足していた一般鋼部材の変形性状を600℃までの部材実験により蓄積し、局部座屈後における鋼構造部材の残存耐力と荷重支持能力を明らかにすることである。この目的を達成するために、以下に示す4種類の実験を行なった。//①溶接構造用圧延鋼材(SM490A)の高温引張試験//火災加熱を受ける鋼構造部材の変形性状を把握する上で、鋼材の高温時引張特性は最も基本的な資料である。高温部材実験に用いた溶接構造用圧延鋼材について、常温~800℃までの高温引張試験を行なった。//②高温時におけるH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験//常温・400℃・500℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材および幅厚比d/t=25と幅厚比d/t=30の箱形断面部材を用いた短柱圧縮実験を行った。短柱圧縮実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈後における残存圧縮耐力を定量的に把握し、局部座屈を考慮した圧縮域における応力-ひずみ曲線を得ることである。//③高温時におけるH形断面部材の純曲げ実験//常温・400℃・500℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材を用いた純曲げ実験を行った。図1に示す鋼構造骨組の火災時挙動において、加熱梁が外側へと伸びだすことができない場合は、梁自身が大きくたわみ込む。このとき、梁の両端部と中央部に曲げ変形が集中するので、局部座屈が生じる可能性がある。よって、火災加熱を受ける鋼梁の曲げ耐力を決める際には、局部座屈を考慮する必要がある。純曲げ実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈に伴う曲げ耐力の低下を定量的に把握することである。//④高温時におけるH形断面・箱形断面部材の曲げ圧縮実験//常温・400℃・500℃・550℃・600℃と鋼材温度を一定に保った状態において、幅厚比b/t=7.5と幅厚比b/t=10のH形断面部材および幅厚比d/t=25と幅厚比d/t=30の箱形断面部材を用いた曲げ圧縮実験を行った。図1に示したように、外柱を含む区画に火災が生じると、加熱梁が伸びだすことにより、外柱は外側へと押し出される。このとき、曲げ変形の集中する外柱の柱頭・柱脚には、局部座屈が生じる可能性がある。このような状況下においては、局部座屈の発生により、外柱の軸方向耐力が急激に低下し、外柱が存在軸力を支えられなくなることが最も懸念される。曲げ圧縮実験の目的は、鋼構造部材の局部座屈後における曲げ圧縮変形性状を明らかにするとともに、加熱梁の伸びだしを受ける鋼柱の荷重支持能力を確認することである。//3.研究の成果//3.1溶接構造用圧延鋼材の高温引張試験//溶接構造用圧延鋼材(SM490A)について5種類,裏当て金について1種類における高温引張試験結果より、高温時の応力-ひずみ曲線をはじめ、弾性係数・0.2%オフセット強度・引張強度・伸びなどの高温時引張特性に関する資料が蓄積された。//3.2高温時におけるH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験//一般鋼を用いたH形断面・箱形断面部材の短柱圧縮実験により、局部座屈後の残存圧縮耐力を得た。圧縮ひずみ15%位における残存圧縮耐力は、H形断面部材と箱形断面部材ともに、500
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