司法精神医学の現在─医療観察法・裁判員制度・脳科学

2010 
司法精神医学は精神障害にかかわる法律問題を扱う精神医学の応用分野であり,近年その課題は多様化している.禁治産を改正した成年後見制度(2000年)では認知症等の患者の判断能力を医師が評価する.精神障害の疑いのある人が刑事事件を起こした場合,刑事責任能力すなわち刑法39条で定められた心神喪失と心神耗弱について裁判官が判断するための資料を精神鑑定が提供する.医療観察法(2005年)では心神喪失・耗弱の状態で重大な他害行為を行った人について裁判所が治療を命じ,治療は専門医療機関で実施される.本法施行で触法精神障害者の治療に対する関心が高まった.新しく始まった裁判員制度では,一般国民である裁判員に精神鑑定結果を理解しやすく提示する方法が検討されている.それとともに責任能力をめぐる国民的な議論とコンセンサスが求められる.他方,近年の脳科学の進歩のもとで,道徳的判断の神経機構を解明する試みがなされている.従来は正常な意思決定に基づくとみなされてきた犯罪行動についても異常な神経基盤が見出され,善と悪,罪と罰をめぐって新しい問題が提起されている.
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